書籍目録

『イエズス会学事規定』

[ロヨラ]

『イエズス会学事規定』

ローマコレジオ版 1606年 ローマ刊

[Ignatius of Loyola].

RATIO ATQVE INSTITVTIO STVDIORVM SOCIETATIS IESV.

Roma, [In] Collegio Rom. eiusdé Societ, MDCVI(1606). <AB2021156>

Sold

8vo (11.0 cm x 16.8 cm), Illustrated Title., 3 leaves, pp.1-169, 14 leaves(index), Contemporary vellum.
刊行当時のものと思われる装丁。見返しの紙が皮装丁から外れているが、製本状態も含め良好と言える状態。三方の小口が濃紺に染められている。

Information

イエズス会教育の基本原則として長年にわたって読み継がれた最重要作品のローマコレジオ版

 本書は、イエズス会における教育活動の基本原則を示したもので、略称 Ration Studiorum の名で広く知られているものです。イエズス会が運営するコレジオ(Collegium)における教育の基本原則と具体的なカリキュラムや教育方法、注意点などがまとめられたもので、イエズス会による教育原理や方針を理解する上で欠かせない文献となっています。

 イエズス会創始者であるロヨラ(Ignatius Loyola, 1491 - 1556)は、教育に対して強い情熱をもっており、イエズス会発足当初こそ教育活動に参画していなかったものの、次第に会として各地での教育施設拡充を進めていくようになります。イエズス会員専用の学生自助教育施設である学寮の設置に始まって、教授資格を有する教員が常駐する教育機関へと発展し、やがてイエズス会会員以外の学生も受け入れる学校運営をヨーロッパ各地で行うようになりました。1549年にはローマにおいて、すべてのイエズス会学校のモデルとなるべくコレジオが創立され、それから半世紀後の16世紀末には250近いコレジオが運営されていたと言われています。コレジオの運営はヨーロッパだけでなく、ヨーロッパ外の宣教地でも行われ、天草コレジオに代表されるように日本を含むアジア各地でも行われました。

 こうしたコレジオの急速な発展に伴い、イエズス会として、統一的な教育の基本方針を提示することが求められるようになり、1580年代から1590年代にかけて数度の試案とその改訂が行われ、最終的に1599年に「イエズス会学事規定』としてまとめられ出版されました(初版出版年表記は1598年)。『イエズス会学事規定』は、その後幾度も版を重ね、1773年にイエズス会が解散を命じられるまで基本的にほとんど改訂されずに読み継がれ、1814年に再びイエズス会が活動を許可されるようになってからは、時代の変化に応じながら改訂を行い20世紀に至るまで長きにわたってイエズス会教育の基本テキストであり続けました。

 本書は、『イエズス会学事規定』の初版刊行から間もない1606年にローマで刊行されたもので、先に述べた全てのイエズス会学校のモデルとなるべく設立されたローマのコレジオ内において出版されています。タイトルページには、創立者ロヨラの肖像と、イエズス会のシンボルでもあるIHS(人類の救済者イエス、Iesus Hominum Salvador)が描かれており、『イエズス会学事規定』がイエズス会の活動の根幹に位置付けられるものであることが象徴的に示されています。

 『イエズス会学事規定』の内容と特徴については、すでに多くの研究がありますが、簡単にその構成をみますと、上級学校に関する諸規則をまとめた前半部と、初級学校に関する諸規則をまとめた後半部とに分けることができ、イエズス会教育機関における最終段階から逆順で初級段階へと下っていく構成となっています。本書における章立てに従って簡単にまとめますと下記のようになります。

上級学校に関する諸規則

1. 上級学校における教育と教育者、監督者らに関する諸規則
(Regulae povincialis / Regulae rectoris / Regulae praefecti studiorum / Regulae communes omnibus professoribus superiorum facultatum) (pp.1-36)

2. 聖書学教授に関する諸規則
(Regulae professoris sacrae scripturæ)(pp.37-40)

3. ヘブライ語教授に関する諸規則
(Regulae professoris linguaæ Hebrææ)(p.41)

4. スコラ神学教授に関する諸規則
(Regulae professoris Scholasticæ theologiæ)(pp.42-47)

5. 聖トマス(アクィナスの『神学大全』)第1部からの問答例リスト
(Catalogus aliquot quaestionum ex prima parte S. Thomæ)(pp.48-64)

6. 決議論教授に関する諸規則
(Regulae professoris casuum conscientiæ)(pp.65-67)

7. 哲学教授に関する諸規則
(Regulae professoris philosophiæ)(pp.68-74)

8. 道徳哲学教授に関する諸規則
(Regulae professoris philosophiæ moralis)(p.75)

9. 数学教授に関する諸規則
(Regulae professoris mathmaticæ)(p.76)


初級学校に関する諸規則

1. 初級学校における教育と教育者らに関する諸規則
(Regulae prafecti studiorum inferiorum / Regulae communes professoribus classium inferiorum)(pp.77-111)

2. 修辞学教授に関する諸規則
(Regulae professoris rhetoricæ)(pp.112-121)

3. 人文学教授に関する諸規則
(Regulae professoris humanitatis)(pp.122-128)

4. 上級文法クラス教授に関する諸規則
(Regulae professoris supreme classis grammaticæ)(pp.129-133)

5. 中級文法クラス教授に関する諸規則
(Regulae professoris mediæ classis grammaticæ)(pp.134-138)

6. 初級文法クラス教授に関する諸規則
(Regulae professoris infimæ classis grammaticæ)(pp.139-143)

 さらに、上記に続いてイエズス会教育機関における基本原則や、教授される各学問分野に関する規則など、教育活動全般に関連する諸規則が掲載されています。巻末には非常に詳細な索引も設けられており、必要な項目をすぐに見出せるようになっていることも、本書の実践的性格を示すものと言えるでしょう。

 日本におけるコレジオをはじめとするイエズス会による教育機関の設置は、『イエズス会学事規定』の策定がなされつつあった時期と同時並行的に行われていることから、『イエズス会学事規定』に直接的に従ってなされたわけではありませんが、当然その基本方針については一定の共通認識があったことは間違いないでしょう。その一方で、共通の文化的基盤を有していたヨーロッパにおけるコレジオと、それらを有していない日本をはじめとする宣教各地におけるコレジオとでは、原則を共有しつつも様々な異なる課題に応える必要がありました。こうした事情を踏まえた上で、日本におけるイエズス会教育機関における教育規則やカリキュラムと、ヨーロッパにおけるそれらとの比較考証はすでに多くの研究がなされていますが、いずれにしてもイエズス会による教育活動を理解する上で『イエズス会学事規定』が基軸となることは間違いありません。数ある諸版の中でも、本書は初版刊行から比較的早い時期に、しかもロヨラの肖像を添えて、ローマのコレジオで刊行されていることから、とりわけ重要な版とみなすことができるでしょう。