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(昭和12年改補版) 昭和12(1937)年 東京(欧米旅行案内社)刊
<AB202177>
Sold
12.5 cm x 18.7 cm, Title., pp.1-4, 1-4, 1 folded map, pp.1-459, advertisement, colophon, 5 leaves(advertisements), Original yellow cloth. [NCID: BA35828505]
Information
本書は、「欧米旅行案内社」を経営していた著者が手がけた、日本からの旅行者向けのヨーロッパガイドブックです。序文において著者が本書執筆の経緯と意義について説明しており、それによりますと、本書は、著者の夫人であるフランス人マリテレス・ド・ブレストとともに前後3回の欧米旅行を自ら行い、その際に自信が観察したこと、また当地で刊行されている数多のガイドブックを比較参考して、「日本人旅行者に必要と思われた事項を広く且つ詳しくかいた我国唯一の純旅行案内書」とのことです。著者は、毎年2000人以上のもの人が欧米に視察や調査、留学のために赴くが、「自他ともに期待したほどの成果を得る能わずして帰朝する人が数多ある」ことを憂い、現地の事情を詳しく、また実践的に解説した本書がこうした人々に何らかの手助けとなるであろうことを本書の目的として掲げています。著者は「欧米旅行案内社」を立ち上げる以前は「満鉄社長室人事課」に勤務していたようで、同社から留学や出張に向かう社員のために、「参考書として約200頁のポケット用小案内を編纂した」ことが、本書執筆の契機となったようです。また、本書見返しに広告のある「日本朝鮮滿洲支那」からは、著者が「Guide book to Japan, Manchuria, Korea & China」と題した英文ガイドブックを刊行(Tokyo, International Tourist Bureau, 1928)していたことがわかり、著者が本書刊行以前から、内外の旅行案内業に、特にガイドブックの出版に強い関心を有していたことが伺えます。 著者が序文でうたっているように、本書では、パスポート取得の手引きや、汽船会社、シベリア鉄道の切符の手配、価格、手配すべきタイミング、携行すべき荷物、服装、カバンなど、旅行出発前の準備から非常に細かく、また実用的なアドバイスが多数掲載されていて、当時の不慣れな旅行者にとっても非常に心強い存在となったことが伺えます。また、現代の視点から見ますと、当時の旅行の様子が具体的に理解できる資料としても非常に興味深い書物となっています。ヨーロッパに向かう手段としては、シベリア鉄道を用いるルートと、日本郵船をはじめとした汽船を用いるルートの双方が解説されていて、いずれも冒頭に収録された折り込み地図でそのルートが視覚的にも理解できるようになっています。 本書は、「充実と正確を期する為に、毎年増補又は改訂出版」をしつつも「署名を維持する為に、署名を変更致しません」とあることから、いったい何年に初版が刊行され、本書が何度目の改訂版であるのかを知ることが難しくなってしまっていますが、少なくとも数度の改訂版が出されていることは確かなようです。また、巻末に掲載された「欧米旅行案内社」が手がける各種出版物のラインナップ(『欧州見物案内』『米国見物案内』『欧州旅行案内』『米国旅行案内』『男女洋装心得と洋食作法』『欧米の習慣作法』『世界性産業婦制度』『欧米漫遊留学案内』『社交ダンス5日独習』『モダン社交ダンス大学』などの著作を掲載)や、「元瀧本舞踊学校教師、元銀座ダンスホール教師」の肩書を持つ滝本千代子による「ダンス教授」の案内などを見る限り、かなり手広く業務を行なっていたのではないかと思われます。本書は昭和12(1937)年に刊行されていますが、日中戦争が勃発したこの年以降、欧米への旅行は次第に難しくなっていきましたので、あるいは本書が「欧米旅行案内社」が手がけた最後の改訂版となってしまった可能性もあります(CiNii上では本書以降の改訂版は確認できず)。