書籍目録

『最新歐米旅行案内 : (B)東京起点:附渡欧通信』

富田鐵夫 / [日本郵船]

『最新歐米旅行案内 : (B)東京起点:附渡欧通信』

第8版 大正15(1926)年  東京(太平洋社)刊

<AB202141>

Sold

8th ed.

13.0 cm x 18.9 cm, 2 leaves(advertisements), pp.1-53, 1 red leaf(Title. for appendix), pp.1-20, 1 leaf(colophon), 1 leaf(advertisement), Plates: [5], Original paper wrappers.
ホチキスとどめによる簡易製本のため金具に錆あり。背表紙の一部に剥がれあり。[NCID: BA85308369]

Information

好評を博したと思われる渡航案内の改訂版

 本書は、大正12(1923)年に刊行された『最新欧米旅行案内』の改訂版として刊行されたものです。奥付には「第8版」とされていますが、初版刊行以降、わずか3年の間に改訂を加えながら実際に版を重ねたのか、あるいは単に増刷を「版」としたのかは不明ですが、おそらく後者の可能性が高いのではないかと思われます。ただ、「第8版」とされた本書は、明らかに初版とは異なる構成になっており、初版との比較が興味深い1冊となっています。

 本書の構成が、ヨーロッパ案内、アメリカ案内の二つからなっている点は初版から変わりありませんが、本書刊行直前に東洋汽船が日本郵船と合併したことを受けて、基本的には日本郵船を用いることが前提の内容(ただし、一部「東洋汽船」の記述が残ったままの箇所もあり)となっています。また、初版のヨーロッパ案内で見られた、寄港地情報の案内が大幅に簡略化された上で本書後半にまとめて掲載されています。寄港地情報の記述は諸般に見られたような実用本意の記述ではなく、どちらかというと旅情を誘うことを意図した記述となっています。この変更は、初版では基本的に日本郵船による記述を採用していたのに対して、        
本書では著者である富田本人が執筆していることによるところが大きいのではないかと思われます。また、本書では初版にはなかった写真図版を採用しており、寄港地を撮影した写真が随所に挿入されています。全体の分量としては初版と比べて縮小していますが、その一方で本書には「渡欧通信」と題した附論が本編に続いて掲載されていて、これは実際に渡航した人たちの体験談を収録したもので、ヨーロッパ各地やアメリカに渡った渡航者の苦労話や教訓、失敗談などが書かれています。これらの渡航者の肩書はいずれも「某在外研究員」とされていますので、欧米の大学に留学した人物らによるものと思われ、外国語の読み書きは堪能なのに会話が苦手なために一段低く見られることによって心を病むといった苦労話など、現在でもよく聞かれるようなエピソードも綴られています。これらの記述はしばしば渡航そのものという主題を外れて、海外生活の苦労や研究者の失敗談となっていることもありますが、いずれの記述も現代の視点から読むと興味深いものばかりです。

 なお、本書には欧米各国の日本大使館の住所を記した折り込み紙が挟み込まれています。