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(銅版画) 17世紀後半 パリ刊
[Larmessin I, Nicolas de]
XOGVN, EMPEREVR EV JAPON,…
Paris, P. Bertrand Rüe, Late 17th century. <AB202112>
Donated
20.0 cm x 29.5 cm, 1 engraved plate sheet, framed, 現代の額装済み。
Information
このユニークな銅版画は、日本の将軍を想像で描いたもので、17世紀後半頃にパリで出版されたものです。描写自体は非常に精巧で写実的ですが、実際に日本の衣装とはかけ離れた姿で描かれていて、当時のヨーロッパにおける日本の君主像の一例を垣間見せてくれる作品です。本図が製作された17世紀のヨーロッパでは、日本の殉教者を描いた様々な銅版画作品が製作されていますが、本図は、そうした殉教事件を引き起こした迫害者である「暴君」としての日本の為政者を描いた同時代の作品として、非常に興味深い作品ということができます。 この図を描いたのは、ラルメッサン(一世、Nicolas de Larmessin I, 1632-1694)で、 ルイ14世をはじめとして本図を含めた世界の君主を描いた銅版画作品を制作したことで知られています。これらの君主を描いた銅版画作品は、何らかの書籍のために用意されたものではなく、当初から独立した個別の作品としてそれぞれ製作されたようで、全体でどれほどの作品が製作されたのかについては定かではありません。いずれの作品も非常に精巧で写実的な表現がなされていることが特徴で、版画作品としては高い評価を受けているようです。 ラルメッサンがなぜ「日本の将軍」を描こうとしたのかは不明ですが、図像の下部にびっしりと記されたテキストから推察すると、おそらくはイエズス会士らの日本報告書などを参照にして本図を製作しているようです。テキストでは、日本についての概説的な解説がなされていて、日本は「約130年前にポルトガル人が発見した」島国であるとされています。この記述から、この図版が製作されたのがおおよそ1670年代前後であることが推測できます。日本は66の小さな王国から構成されていて、それらのうちの主要な王国は「京都(Meaco)」と「山口(Imagunce)」であると説明されていて、江戸時代以降のオランダ人らによる日本情報ではなく、それ以前のイエズス会士らの日本報告を参照していることがうかがえます。日本の人々は名誉を重んじて、軍人として極めて勇敢で、幼い頃から武器とっているとして、強大な軍隊が存在することが強調されています。また、金、銀、銅、鉄、鈴、鉛等の鉱物資源が豊富に産出するとも紹介されています。日本の宗教については、9つの偶像崇拝の宗派があるが、宣教師によるキリスト教の改宗が行われ、その結果多くのキリスト教信者が生まれたが、その信仰のゆえに殉教を余儀なくされた人々が日本には数多くいるとしています。この短いながらも充実した記事からは、日本の将軍に対してラルメッサンがいかなる評価を有していたのかを具体的に伺うことはできませんが、文末にキリスト教の迫害と殉教者のことについて言及していることから、こうした迫害を行なった「将軍」を少なくとも肯定的には捉えていないのではないかと思われます。 秀吉や家康といった、キリスト教迫害期に強大な権力を獲得していった日本の為政者を銅版画作品で描く試みは、イタリア人クラッソ(Lorenzo Crasso, 1623 - 1691)が1683年にヴェネツィアで出版した『著名武将列伝 (elogii di capitani illustri scritti. Venice, 1683)』において描かれた秀吉、家康の図が代表的なものとして知られていますが、本図はこれに連なる同時代の優れた作品と考えることができます。本図とクラッソの作品に共通しているのは、キリスト教徒を迫害した残忍な為政者として「将軍」を描く一方で、その強大な権力と富を、西洋諸国の強大な君主に匹敵する存在として描く姿勢です。こうした描き方は、(それが作者の意図であったかどうかは別にして)結果的に、こうした強大な権力を有する「暴君」による迫害にもかかわらず、それに屈することなく信仰を貫いたキリスト教信者を間接的に称賛する効果をもたらしているとも言えます。その意味では、17世紀のヨーロッパで製作された日本の殉教者を描いた様々な銅版画作品と並んで、そうした迫害をもたらした側の為政者(「暴君」)を描いた同時代の銅版画作品として、大変興味深い作品と言えるでしょう。なお、クラッソの作品が書物として出版されているのに対して、本図は1枚ごとの単独の銅版画作品として製作されているため、その現存数は、かなり少ないのではないかと思われます。