書籍目録

『あるオランダ人の日本の人々の間における運命』

ユエル・ハンセン

『あるオランダ人の日本の人々の間における運命』

刊行年不明(1870年代?) アムステルダム刊

Juel-Hansen, N(iels).

De Lotgevallen van een Hollandsche Matroos onder de Japaneezen,…

Amsterdam, B. H. Smit, Not dated. (1870th ?). <AB202103>

¥88,000

14.0 cm x 20.5 cm, Title., pp.[1], 2-187, Original decorative cloth boards.
[NCID: BA43286077]

Information

物語の形式をとってユニークに描かれた幕末の日本社会

 本書は、幕末に日本を訪れたオランダ船員が日本に滞在した際の見聞記をまとめた形式で記されたユニークな著作です。著者ユエル・ハンセン(Niels Juel-Hansen, 1841 - 1905)の詳細な経歴等は不明ですが、本書では、日本に上陸してから、下田をはじめとした幕末の外国人にとって重要な街々での見聞を、物語の形式をとって叙述する一方で、冒頭の序文にあたる箇所では、長きにわたるオランダと日本との交流史を概括して見せていることから、著者の実際の来日経験の有無はともかくとして、一定の学識ある人物だったのではないかと推察されます。

 本書の本文は、とあるオランダ人船員が幕末の日本に蒸気船でやってきて上陸する場面の記述から始まっています。そこから船員が実際に見聞した様々な出来事を記す形で筆が進められていて、結果的に日本の様々な風習や文化、政治状況などが描かれる構成となっています。物語形式をとった日本入門とも言えるべき内容で、本書で扱われているトピックの一例を挙げてみますと、日本の祭り、子どもの遊び、葬儀の様子、水田と稲作の風景、農村の暮らし、山登り、日本の官吏による投獄と取調べの様子、アイヌの人々、と非常に多岐にわたっています。著者がどのような情報源に基づいて本書を記したのかについては本文中では言及されていませんが、幕末に刊行された来日西洋人による様々な著作を参考にしているのではないかと思われます。また、本書には随所に木口木版によるものと思われる図版が多数挿入されています。これらの図版は、本書オリジナルのものというよりも、先行するいくつかの著作等から流用したものではないかと思われますが、親しみやすいテキストと相まって、非常にわかりやすい日本入門書となるよう工夫されていることがうかがえます。

 このように非常に親しみやすいポピュラーな書物となるように工夫されているにもかかわらず、本書はその刊行部数が極端に少なかったのか、国内外の研究機関に所蔵されている数は驚くほど少ないようです。ユエル・ハンセンは、ほぼ本書と同じ内容と思われる著作をタイトルを変えて(『日本の人々』DeJapaneezen.)1890年代にも出版しているようですが、この著作が実質的に再版として刊行されたものだったのかもしれません。

タイトルページ。
序文冒頭箇所。日蘭関係の歴史を主に論じている。
本文冒頭箇所。汽船が港に入る場面から始まっている。
本書中には多数の図版が収録されている。
巻末に掲載されている目次。