書籍目録

『蝶々夫人(全楽曲集)』(楽譜)

プッチーニ

『蝶々夫人(全楽曲集)』(楽譜)

新版 1907年 ミラノ他刊

Puccini, Giacomo.

MADAME BUTTERFLY…OPÉRA COMPLET…(THÉATRE NATIONAL DE L’OPÉRA COMIQUE)

MIlan and other several places, G. Ricordi & C, 1907. <AB2020399>

Sold

New edition.

20.0 cm x 27.2 cm, Half Title., 2 Front., Title., 2 leaves, pp.1-248, 1 leaf(blank), 4 leaves(advertisements), Original pictorial publishers cloth.
製本にやや緩みあり。

Information

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「ところで、《蝶々夫人》が、これまでの日本を題材にしたオペラと異なる点の一つは、多くの日本の旋律が効果的に使われていることである。プッチーニが日本の曲の収集に骨折ったことは上述したが、彼がオペラに用いた音楽は、長唄、民謡、軍歌、さらには国家『君が代』まであって多様である。(後略)

「これら多くの日本の旋律をプッチーニがどのように試絵収集したかは、興味深いところである。これについては、今まで色々なことがいわれてきたが、明確に説明できる資料は十分とはいえないようである。とにかく、当時滞欧中の多分複数の日本人からいくつかの材料を得たことはまちがいない。その種なものは、ローマ駐在の大山日本公使の久子夫人が提供したと言うことになっている。その他当時滞欧中の有名な芸者貞奴(現代劇の役者川上音二郎と結婚)からも得たといわれるが、これは確たる証拠はない。しかし1900年のパリ万博の際にその川上一座が演奏した日本の音楽をまとめた『ラ・ムジク・ジャポネーゼ』が、《蝶々夫人》を作曲した家にあったということなので、直接あるいは間接に貞奴の歌や踊りの伴奏音楽などを知っていたものと考えられる。この家には、この他邦楽を吹き込んだレコード(英国製)やサリヴァンの《ミカド》のスコアもあったといわれる。さらに、プッチーニは日本の風俗についての書物まで読んだと伝えられている。おそらく《蝶々夫人》の作曲に当って、これらが何らかの形で重要な材料になったことであろう。
 また、これはあまり知られていないことであるが、プッチーニは、通常のオーケストラの楽器に加え、日本のお寺の釣鐘や仏壇で使われるお鈴、さらには風鈴までも使用するように指定した。(後略)」

「《蝶々夫人》には、日本の旋律が劇の進行上効果的に使われているが、アリアや二重唱などにも魅力的なものが少なくない。しかし最も印象深いのは、人物や風景が、プッチーニの繊細かつ巧妙な音楽で見事に表現されていることである。特に、蝶々夫人の微妙に揺れ動く心理がオーケストラで巧みに表現され、悲劇的な終末を暗示するようなフレーズが随所に現れて劇的効果を高める。この手法は、名作《カルメン》をも思わせるものがある。このオペラが作られた頃には、日本を扱ったオペラは欧米でかなり知られていた。このオペラのように、欧米の海軍士官と日本女性との恋を扱ったものでは《お菊夫人》と《芸者》が知られ、純情ではあるが気丈な悲劇のヒロインを扱ったものとしては《イリス》があった。したがって、《蝶々夫人》のストーリーは、どちらかといえば二番煎じで、ステレオタイプであることは否めないが、音楽性と劇的展開という点では、この作品は群を抜いていたのである。」

(岩田隆『ロマン派音楽の多彩な世界』朱鳥社、2005年、184-186頁より)