書籍目録

『世界の始源から現代に至るまでに興隆した宗教の歴史事典:キリスト教、ユダヤ教、イスラーム、中国、日本、インド、韃靼、アフリカその他の神々の略史』全3巻(揃い)

[ラクロア]

『世界の始源から現代に至るまでに興隆した宗教の歴史事典:キリスト教、ユダヤ教、イスラーム、中国、日本、インド、韃靼、アフリカその他の神々の略史』全3巻(揃い)

初版 1770年 パリ刊

[La Croix, Jean-François de].

DICTIONNAIRE HISTORIQUE DES CULTES RELIGIEUX, ÉTABLIS DANS LE MONDE DEPUIS SON ORIGINE JUSQU’A PRÉSENT; ...L’HISTOIRE abrégée des Dieux & demi-Dieux du Paganisme, & celle des Religions Chrétienne, Judaïque, Mahométane, Chinoise, Japonoise, Indienne,...

Paris, Vincent, MDCCLXX(1770). <AB2020351>

Sold

First edition.

8vo (10.1 cm x 16.8 cm), 3 vols.: Vol.1(A-D): 1 leaf(blank), pp.[i(Title.), ii], iii-lvj, [1], 2-674, LACKING 2 pages(675, 676), 677, 678, 677-726, 1 leaf(blank), folded plates:[2]. / Vol.2(E-M): 1 leaf(blank),Title., pp.[1], 2-848, 1 leaf(blank), folded plate: [1], / Vol.3(N-Z): 1 leaf(blank), Title., pp.[1], 2-408, 1-400, 1 leaf(blank), folded plate: [1]. Contemporary full leather.
NCID: BA08701512 / BA60369341

Information

90以上もの日本関係記事を収録したユニークな世界宗教事典

 本書は、その長大なタイトルが示す通り、世界各国地域のあらゆる宗教に関する用語を集めて事典として編纂されたもので、全3巻からなる大部の著作です。「あらゆる宗教」の中には、当然日本のそれも含まれており、90以上もの用語が日本の宗教に関係する用語として収録されていて、比較宗教史的、民俗学的な観点から論じられた日本関係記事として大変興味深いテキストを提供しています。

 本書は1770年にパリで刊行されたもので、その著者名は明記されていませんが、後年の新版に際して明らかにされた情報によると、ラクロア (ean-François de La Croix, 17? - 17?)であることがわかります。とはいえ、著者についての詳しい情報は、少なくとも店主の見る限りほとんどなく、18世紀生まれの著作家ということ以外の情報が見当たりません。しかしながら、世界各国地域の宗教に関連する用語を全3巻もの大分量で収録するという本書の性質に鑑みると、相当の学識ある人物だったのではないかと思われます。

 本書に掲載されている用語は、全てアルファベット順で配列されていて、第1巻がAからDまでを、第2巻がEからMまでを、そして第3巻がMからZまでの用語を収録しています。第1巻の冒頭には、出版社による簡単な序文と、用語を主要な3宗教別に分類した収録用語一覧表が設けられています。すなわち、ユダヤ教、キリスト教、ペイガニズム(Paganisme)という3つの大きな分類を設け、そこからさらに細かく各宗教や宗派の用語を分類しています。例えば、キリスト教では、全般に関連する項目に加えて、カソリック、ルター派に加えてコプトなどかなり細かな貝部類が設けられています。このうち、最も多彩な小分類を有するのが、ペイガニズムで、日本や中国やシャム、韃靼などアジア各国の宗教なども全てこの分類の中に属するものとされています。

 日本についての項目一覧は、第1巻の63(xlviii)ページから次ページにわたって掲載されていますが、実に90以上もの日本の宗教に関連する用語として収録されていることがわかります。日本観系の用語として収録されている用語は、「阿弥陀(Amida)」や、坊主(Bonzes)」、「大仏(Daiboth)」、「内裏(Dairi)」、「仏(Fotoques)」、「神道(Sintos)」、「釈迦(Xaca)」といった、比較的わかりやすい用語も数多くありますが、店主には一読してわからない用語も含まれています。また、「祭り(Matsuri)」や「信長(Nobunana)」といったユニークな用語も収録されており、著者の射程範囲がかなり広範囲にわたっていることに加え、日本全般に対する理解が相当のものであったことを窺わせます。それぞれの用語の解説は、短いものは数行のものもありますが、1ページから数ページにもわたって解説されている用語もあり、事典の1項目とは思えないほど充実した解説となっています。

 キリスト教のみならず世界のあらゆる宗教を比較して論じようとする試みは、カソリック、プロテスタント双方の立場から17世紀後半から徐々に行われるようになり、1661年にカロリヌス(Godefridus Carolinus, 1634 - 1665?)が刊行した『アジア、アフリカ、ヨーロッパにおける現代異教論』(Het hedendaagsche heidendom in Asia, Africa, en Europa. Amsterdam, 1661)をはじめとして、ジョヴェ(Sieur Jovet)による『世界の全王国の宗教史』(L’histoire des religions de tous les royaumes du monde. 3 vols. Paris, 1676)、そして、ピカート(Bernard Picart, 1673 - 1733)とバーナード(Jean Frederic Bernard, 1680 – 1744)による金字塔『偶像崇拝の国々の宗教文化と儀式』全7巻(Céremonies et coutumes religieuses de tous les peuples du monde représentées par des figures dessinées de la main de Bernard Picard…7 vols. Amsterdam, 1723-1737)に代表されるように、本書が刊行されるまでにある意味での伝統的分野とも言える蓄積がありました。ラクロアはおそらくこうした先行文献を大いに活用しつつ本書を執筆したものと思われますが、その内容の充実ぶりに加えて、用語別の事典形式の書物として著したという書物の形式の点でも、この分野における本書の特徴があると言えるでしょう。

 本書は、当時からかなり売れ行きが良かったものと思われ、後年になっても繰り返し再版がなされています。後年版と初版である本書との異同については確認できていませんが、いずれにしても18世紀後半のベストセラー本として本書が広く読まれ、その中に日本関係の用語が90以上もの収録されているということは、大いに注目すべきことと言えるでしょう。

(*本書の存在については、大阪教育大学の山本夏子氏からご教示いただきました。重ねて御礼申し上げます。)